疲労について考える時、肉体の酷使による筋肉疲労ではなく脳が疲労しているというケースがあります。
あまり肉体を動かしているわけではないのに、またはほとんど肉体を使っていないのに疲労を感じる場合、脳が疲れている可能性があります。
脳が疲労すると全身の疲労感を感じることがあります。筋肉は酷使されていませんので休憩をとっても回復した実感が持てず、慢性的な疲労感へと繋がってしまいます。
脳が疲労する原因としては様々なものがあると考えられ、それらが複数重なって起きている可能性があります。
まず脳に必要な栄養素が足りていないという可能性があります。各種ビタミン、鉄、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル、タンパク質、脂質などです。脂質は頭の栄養にとても重要です。魚の油からとれるEPAやDHA、オメガ3と言われるアマニオイルやエゴマオイルも必要と言われています。
しかし栄養素を摂れば疲労が回復するかと言えば、それほどシンプルな問題ではないかもしれません。問題は栄養不足に加えて、脳の酷使があげられます。
仕事や勉強で脳を使うことが多い人だけでなく、人に気を使いすぎて脳が疲れてしまう人が実は多くいます。失敗を恐れたり、先を考えすぎてしまい脳が疲れてしまうのです。最近では場の空気を読むという言葉があり、空気の読めない人と思われないように必要以上に緊張してしまうことでも脳は疲れます。
自然体の自分を見失い、人から見られている自分を意識し過ぎて、かっこよく見えているか、優秀な人と見えているか、普通と比べて自分の人生はどうか、幸せを得られているか、など本来考えなくてもよいことを考えすぎてしまうことでも脳は疲労します。
先のことを予測しそれに備えることが社会生活には求められますが、すべては思い通りには進みません。まったく考えないということはよくありませんが考えすぎるとストレスになり、脳が疲労していきます。
また同じ姿勢が長く続いたり、悪い姿勢を続けたりすることで首や肩などの筋肉が動きずらくなり、血流が悪くなります。特に脳への血流が悪くなると脳に酸素が届かなくなり、疲労感を感じやすくなります。
そのまま放っておくと脳は緊張と血流低下によって機能不全に陥り、結果として体調不良、精神的な不調(うつ病など)を発症してしまう危険性もあります。
お風呂に入ったりお酒を飲んだり、リラックスをすると血流が一時的に蘇り、また脳神経が別の回路を思い出すことで緊張が和らぎ、疲労感が弱まることが考えられます。しかしお酒を飲んだり、スイーツを食べたりすることが習慣になり適度な量を超えてしまうと、別の健康問題が生じることがあるので注意が必要です。
使いすぎた脳をリセットするため本能的に脳に快楽を与えようとしてしまうことがあります。
お酒もそのうちの一つですが、ショッピング、カラオケ、ゲーム、ネット、漫画、テレビなど日常を離れた状態に脳を置くことで一時的に緊張状態を回避することができます。
また快楽も度があり、次第にエスカレートしていくのが人間ですのでしっかりと自己管理していかないと生活習慣から崩れてしまう可能性があります。
脳を別のことに使うことで緊張が和らいだ感覚を得るかもしれませんが、脳が休息を得ているとは限りません。ゲームに熱中して仕事を忘れる時間は摂れるかもしれませんが、結果的に脳の疲労は取れていないのです。
またショッピングも脳が疲労していると陥ってしまう快楽のひとつで、何を買うか迷っている時に快楽を感じ、ストレスを和らげているように思いますが、脳は休まるわけではありません。そしてまた必要のないものを買ってしまったというストレスにより、脳は疲労を抱え込むのです。
ギャンブル、性的な刺激、ドラッグなど脳の緊張、ストレスから解放されるためにどんどん深みに嵌ってしまう人がいますので、脳が疲れていると感じたら刺激を与える方向ではなく、休息させていく方向へ意識を向けていただきたいと思います。
脳は一度得た快感を忘れる事が難しく、何度も要求してきて深みにはまってしまうのですが、休息を摂るという価値観を強く持つと脳は本来の状態に戻ってくれます。
現在、何かしらの依存症を持っている方も、脳を休息させる方法がわかると必ず元に戻っていきます。
まず大切なのは血流を回復させることです。そのため必要な運動をしたり、場合によってはマッサージなどをお受けになることで現状を改善することが有効です。
私は呼吸法により脳を休息させる方法をお勧めしています。「脳の休息法」です。
脳は起きている間中、常に考えごとに追われています。現状分析、未来予測、過去の検証など脳は休まることを知りません。それも何度も繰り返し、次から次へと考え事が脳をよぎります。
それら考え事のすべては欲と関係があります。自分の欲と関連して思考が次から次へと作られるのです。
すべての欲から離れることができたら、どんなに平安な心でいられるだろう、と思ったことはありませんか?
その通りで人間は欲にしばられ、自分の欲によって苦しんでいるのです。
しかし生きていくためには必要な欲があるのも事実です。それを否定すると混乱していきます。
難しく考えず、何も考えない時間を摂るようにするのです。欲のない人間を目指すことは素晴らしいことですが、このメソッドを使うと無駄な努力をせずに自分の思考に振り回されることが少なくなっていきます。結果的に不自然な行動が修正され、調和のとれた行動をしている自分に気づくことができます。
一日わずか5分でもいいので、思考から離れた、あらゆる欲から離れた時間を摂るようにします。するとその時に脳がリセットされ、バランスが整うのです。
起きている間中何かしら考え、「ああなってほしい」「こうあるべきだ」「こうなったらどうしよう」このような思考をリセットすることなく、眠りについても寝ている間中、脳は思考を止めていません。起きた時に疲労を感じるのは、質のよい睡眠がとれていないからです。
寝る前の数分間、すべての欲から離れた時間を自分に与えます。すると寝ている間、脳は休息してくれるのです。眠りが変わります。すぐに効果を感じることはできないかもしれませんが、毎日やっていれば必ずわかってきます。
ではどのようにするか、最近ではマインドフルネスという瞑想法がアメリカから輸入され、本屋でもそのような本が増えてきました。私はマインドフルネス自体はとても素晴らしいものだと思っています。
マインドフルネスというのは禅から来ているのです。禅の教えがわかりにくいため、わかりやすいメソッドとして欧米で浸透し自己啓発や疲労回復法として一般の会社員の方が効率を上げるために取り入れたものが、日本に来たのです。
禅は中国で生まれたもので元はインドの仏教です。しかしインドはヒンドゥー、中国は道教などが主流となり、禅は日本において独自の発展を遂げました。そのため禅は日本由来のものと言ってもよいのではないかと私は思います。
話は脳の休息法に戻ります。
5分でもいいのであらゆる欲から自由になった状態を持つことが大切です。例えばネットで買い物をしている時間も何かを検索している時間も、程度の差はあれ何かしらの欲に脳は使われています。
急に脳を欲から離せと言われてもできることではありません。できなくてよいのです。できることを目的にしてはいけません。いろんな考え事、心配事、ああしたい、こうなってほしい、こうなったらいやだ、どうなってしまうのだろうなどの思考が頭の中にあることに気づいてください。それを止めようとせず、考えないように努力したりしないでください。
そのまま、あらゆる思考を眺めます。その眺めている自分を見つけるのです。思考はそのままなにもせず、コントロールしようとせず、ありのままが通り過ぎていくのをただ眺めていくだけです。
一つの思考が通り過ぎていけば新たな思考が浮かぶかもしれません。同じ思考が長く居座るかもしれません。過去にあった忘れていた記憶が急に現れるかもしれません。それらを意味あるものとして分析する必要はありません。そうしてしまっては意味がなくなるのです。何が目の前に浮かんでも、通り過ぎていくものとしてただ観察していてください。
眺めている自分、思考を観察している自分が本当の自分です。いつの間にか考え事をし始めている自分に気づいたら、すぐに思考を観察する自分に意識を向けるだけです。それを何度も繰り返します。
どんなに考えたくなる問題がでてきても、気になる問題が浮上してきても、その思考の罠にはまらずに眺めている自分でいることが重要です。この間、呼吸をゆっくり繰り返し、呼吸を止めないようにします。鼻呼吸を行い、どんな思考、心配事、欲望がでてきても問題視せず、眺めると当時に呼吸に意識を向けていてください。
難しいと感じるかもしれませんが、やり続けていると思考は現れて消えていくもの、ということがわかります。考えることから距離と摂ると脳が本来の状態を思い出します。休息を得ることができるのです。
その結果、考えない、ぼーっとした人間になるのではありません。今までよりずっと頭がさえ、決断力、判断力がはるかに向上している自分に気づくと思います。思考しすぎる癖がついてしまうと脳が疲弊し、機能しなくなるのです。そして心と体が分離し思うように動けなくなっていってしまうのです。
5分でも意味があります。やらないよりははるかに脳が休息されていきます。できれば15分やってみてください。その後、眠気が来るとともに睡眠に入れば、とても質のよい睡眠が摂れ、その間に自律神経が整い、細胞が修復され、体も癒えていきます。